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【山の宿】3

 老婆が気を利かせたのだろうと思った。

 暗闇の中で女の姿は見えない。

生暖かい肌の匂いが鼻をくすぐる。

擦り寄ってくる身体に手を伸ばすと、張りのある肌が吸い付いてきた。

俺は細身の体を抱き寄せ、女はため息を漏らし背中を反らせた。

 若々しい弾力のある身体は俺の腕の中で魚のように自由だった。

何も喋らず声も立てず、ただ息遣いだけが聞こえる部屋のなかで、

現実ともまぼろしともつかないひと時が過ぎ去っていった。

そして女は、来た時と同じように、静かに部屋を出て行った。




 翌朝は朝食を取らずに出ることにしていたので、

勘定を払おうと呼び鈴を鳴らすと、老婆が奥から出てきた。

昨日と違って若返って見えた。

昨夜の印象派は、夜の暗さのせいもあったのだろう。




「ここには他にも従業員がいらっしゃるんでしょう」

「いいえ、私だけでございます」

 とぼけているんだと思った。

だが、請求された金額は食事と宿泊意外何も入ってなかった。

では、昨夜の女は、自分から進んできたということか。

「ご家族と一緒ですか? 娘さんとか、お孫さん――」

「いいえ、私一人でございますよ」

 老婆の頬にばら色が浮かびあがり、

大きな疣が生き物のように蠢いた。




 世の中には年齢よりずっと若々しい声をもっていたり、

美しい手や脚をしていたりする人がたまにいるものだ。

だから、首から下だけ、若さを保ったままの人間がいても

おかしくはないのかも知れない。



【終わり】

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ジャンル : 小説・文学

【山の宿】2

(前のお話1)

  

 それにしてもここは静かだ。

食器がぶつかる高い音や、鍋のふたが立てる金属的な音も聞こえない。

厨房はこの建物の奥の別棟にでもあるのだろうか。

こんな場所じゃどうせ出てくるのは作り置きの煮魚や野菜の煮物だろう。

俺は鞄から書類を取り出すと、目を通し始めた。

 間もなく、今度はかすかに廊下をきしらせる音がした。

「お食事でございます」

 予想に反して料理は見事なものだった。

新鮮な海の幸、山の幸がふんだんに盛られ、細工も施されている。

やはり腕のいい板前がいるに違いない。

「今夜は冷えますねぇ。一人寝は堪えますでしょう」

 その言葉は、栄えた温泉地にありがちな秘密めいた楽しみを連想させたが、

こんな山奥の一軒宿に、そんな女性がいるとは思えない。



 風呂場の入り口は男女別だがその先は混浴の温泉になっていた。

湯に浸かっていると、さっきまでの不快感がすうっと消えていくようだった。

 部屋に戻ると、既に布団が敷かれていた。

布団に入るとすぐに風呂場のほうからザーッと湯を掛け流す音がきてきた。

老婆かそれとも――

俺は間もなく眠りに落ちた。



 夢の中で、廊下のきしむ音を聴いた気がした。

そのかすかな人の気配は部屋の前で止まり、

戸をあけて誰かが部屋に入って来る。

俺はまだ半分眠っていながら、その気配を感じていた。

衣擦れの音と同時に石けんの香りがして、

湯の流れる音を思い出した。

そのまま目を閉じていると、女が布団に滑り込んできた。

若い女の、弾むような息遣いがすぐそばにあった。



【続く】

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【山の宿】1

 タクシーを降りた途端、冷たい風が体を取り巻き、

俺はコートの襟をかき合わせた。

近くに電灯はなく、空は晴れているはずなのに

背の高い木々に邪魔され星もみえない。

 秘境の宿というよりも、寂れきった安宿といった方が良さそうだ。

 納品した機械のトラブル解決に、時間がかかってしまった俺は、

明日の朝一番で戻ると会社に伝え、

こちらで一泊することにした。タクシーの運転手に聞いたところ、

宿といえるのはここ一件しかないという。

そんなことでもなければ、こんな場所に来ることは無かったが、

今夜一晩だけの我慢だと思った。

 

 坂道を下っていくタクシーのテールランプを見送り、

玄関の引き戸を開けた。

人の気配は無かく、外よりも寒さを感じた。

 普通の家の玄関を広くしたようなつくりで、

正面に古びた応接セットが置いてある。

小さな電灯がテーブを照らし、周囲に憂鬱な陰をつくっていた。

タクシーを返してしまったことを後悔し、思わず小さくした打ちした。

「いらっしゃいませ」

 すぐそばから声が聞こえ、俺は心臓が飛び上がりそうなほど驚いた。

とすぐに廊下の暗闇から、小さな老婆がとことこと出てきた。

顔の真ん中に大きな疣が目立った。

 さっきまでまるで足音が聞こえなかったが、ずっとそこにいたのだろうか。

今の舌打ちも聞かれたに違いないと思った。

息遣いさえ聞こえそうなほど近い場所で、

さっきからずっと俺の顔を見上げていたというのか。

いや、風の音にかき消されて気がつかなかっただけだろう。



 俺は仕事用の笑顔を取り繕った。

「こんばんは。さきほど電話したものです」 

「はい、お食事と宿泊でございましたね」

 しわがれた声で、私を見上げてニヤッと笑った。

鼻の横の醜い疣が、まるで別の小さな生きもののように蠢いた。



「お部屋はこちらでございます」 

 老婆のあとをついて歩いた。真っ暗だと思っていたが、

月が昇ったのか、うっすらと足下が見える。

明かりのついている部屋はなかった。もう眠りについてしまったのだろうか。

それにして静か過ぎるし、何より寒い。

暖房も使われていないのかも知れない。どうやら客は俺一人のようだ。

平日だしこんな人里はなれた場所にあるのだから当然だろうが、

こんなふうでやっていけるものなのだろうか。


 通された一番奥の部屋は、暖房で暖かかった。

老婆はお茶を入れてすぐに引っ込んだが、廊下を歩く足音がしないのに気が付いて、おやと思った。

さっき自分がぎしぎしと床板を鳴らして歩いてきたが。

そうか、あの老女は体重が軽いからなのだろう。

 

【次へ】

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えめる。

Author:えめる。
ネコの心のえめる。です。
同じ名前の人がいつの間にか
チラホラいるようなので
。を付けました

ねこ人間のプロトタイプ
品質最低で^・ω・^すまんね。
いちおう言っとくけど
永遠の22歳ニャからね。
ハートがっ。


ちなみに脳内は5才くらい
ほんとすまんね。

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