「天使の花はしご」(47)

(前のお話46へ) (モクジ君)

 水中を静かに上がりつづける、ひとかたまりの影。

天使は目をつぶり浮力に体を任せていました。

 グリフォンはその隣でぴったりと寄り添い、大きな眼玉で天使をじろりと見ています。

天使の目には、グリフォンは再びフィズの姿でそこに存在していました。

天使の疲れた顔はそれ以上の感情を表していなくても、

グリフォンにはこころを読み取る力が備わっています、

天使の動揺する気持ちが手に取るように伝わってしまうのでした。

『そうよ。私はフィズ。あなたは私のもの!わかったならば私の言うことをお聞きなさい』

 グリフォンが人間の体に手を伸ばします。

たった一人の味方だと思っていたギアド老人のことさえも信じられなくなった今、

天使の心で小さな音を立てて何かが崩れ、自らフィズに抱きつくのでした。

 

 やがて羽根の最後の一枚が、役目を終えてひらひらと天使の口から離れていきました。

天使はグリフォンの手中に落ちてしまったのでしょうか。

 いいえ。天使はまだ頭の片隅に残るかすかな希望とともに、

辛うじてフィズの幻影と戦っていました。

そして呼吸のための羽が尽きた今、体中の血液が酸素を求めて騒ぎ出し、

充血が始まった眼球は幻影を見ることをやめて、グリフォンの本当の姿を見ました。

さらに、体の変調はそれまで霧の彼方に追いやられていた意識を

一気に引き寄せる効果を発揮してくれました。グリモアの声を思い出したのです

《呼吸のために羽を引き抜くことはかまわぬ》

 天使ははじかれたように手を延ばし、グリフォンの背中から数本の羽根を引き抜くと、

あえぐように口元にあてがいました。

餓えた肺が急激にふくらみ、あわ立ち始めた血液をなだめていきます。

何度目かの息を大きく吐いたとき、グリフォンの感情を押さえた声が響いてきました。

『あら、気付いちゃったわね。仕方ないわ。グリモア様が仰ったのはそういうこと。

あなたが羽根を引き抜こうとするのを、私が拒むことは出来ない』

 それから自嘲するような、自らを哀れむような声に変わりました。

『残念だわ。また獲物を逃しちゃった』

(また……?)

『フン、百年前のことよ』

 天使はドアの前でこっそり立ち聞きした悪魔達の会話を思い出しました。

(九十七年前の……天使)

『あら、知っていたの? そう。ギアドがうっかり人間にしてしまった。

それを私はグリモア様から預かった』

(そして誘惑したんだ、わたしと同じように――)

 天使の怯えるような、問いかけるようなまなざしを受けて、グリフォンが笑い出しました。

『あはは、違うわ。だってあれは女性の体だったんですもの! いらないわあんなもの』

 吐きすてるような言い方です。

(えっ、女性?!)

『そう。だからグリモア様のお言いつけどおり、さっさと地上に送り届けたのよ。

もとが中性である天使が、男になるか女になるかは時の運。なってみないことには

誰にも分らない』

 それからグリフォンは名残惜しそうに、人間の体をじろじろ見ました。

『あなたが男の性を与えられたのは、ただの偶然よ。

愚かなギアドはね、私が男を獲物にしていることも知らないの』

 ――そうだったのか。九十七年前のときはたまたま女性だったから、

何事もなく無事に地上に帰れたんだ。

おじいさんは、今回も同様に考えていたに違いない、人間の体になってしまえば、

無事に地上に返してもらえると。人間の男がグリフォンにとっての獲物だと知らずに――。

天使は一度でも老人を疑った自分を恥ずかしく思い、心の中でわびるのでした。

 グリフォンが優しげな声を出しました。

『一つだけ、いいことを教えてあげましょうか』

(いいこと?)

『彼女は、ガラの泉を飲んだことである力が残ったわ』

(力って井戸のこと?)

『それとは別に、彼女にはタマシイが見えたの』

 それを聞いた天使の心は、いくらか晴れやかな気分になりました。

体が変わってしまってもまだ、タマシイの輝きが見えるのだと思うと、

その力が単なる天使としての名残であったとしても、

天使だった頃の誇りを持ち続けられると思ったのです。

『そうだといいけど』

 グリフォンがバカにしたように鼻でせせら笑いましたが、天使の心は気にしませんでした。

彼女はきっと獲物が手に入らなかったから悔しがっているんだと、

ちょっとだけグリフォンを気の毒に思うこころの余裕さえ出てきました。

それというのも、地上の明かりがもうすぐそこまでせまっていたからです。

早く本物のフィズの顔が見たい、それが今の天使の心のたったひとつの願いでした。

『そろそろお別れね。私の役目はここまでよ。あとは勝手にするがいいわ』

 グリフォンがひときわ大きな空気のかたまりを膨らませ、人間の体を包み込むと、

勢いよく地上に向けて飛ばしました。

 グリフォンはぐんぐん遠ざかる空気玉に背を向けると、

フフンと鼻息を残してもと来たほうへ帰っていきました。

 

(次のお話48へ)

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だらく中ニャ。

はうあー。えめるただいま堕落中。

どんな堕落かって、そんな、あんな、ねえ、どんな?

君らが興味を持っているような立派な堕落じゃないのよ。ごめんなさい。

あい? 立派な堕落が何かは、各自胸に手を当ててみたら答えが分ります。

人によって違うから、きっと。

 

ヨーグルト。えめる、ブルガリアヨーグルトが大好きなの。

あれ? やだ。 なにこのパッケージの赤いリボン柄……。

「ヨーグルトの正統」って書いてあるの、今初めて読んだわ。

 

この程度にしか物事を見ていないってのが、

ここでばれちゃったわね、別にいいんだけど。

「大好き」の程度がこれってことは、

まあまあ好きな「恵」なんて、もう、どこのメーカーかさえわからないってことでしょ?

でも知ってるわよ。明治がブルガリアなら、あとは雪印しか知らないんだから。

たぶん……。

 

でね。

堕落の部分なんだけど、とうとうやったわ。ほめて。堕落を誉めてってナニかしら?

450グラム入りをパックのまま、じかにスプーンで食べちゃってる訳。

お行儀悪いネコで可愛いんです。

 ↑ 誰も言ってくれないから自分で言ってるんだけど。(可愛いって所)

一度あけて、3分の2残ったものなんだけど。

お砂糖も少し足しました。

 

ふうっ。ごちそうさま。

ヨーグルトでゲップ。

可愛い猫。←絶対誰も言わないと思うから自分で言ってみたの。(可愛い猫って所)

 

一応ね。猫だけど、じか喰いだけはしないようにと思っていたの。

でももう終わりね。

さようなら。清く正しかったわたしの人生。

 

ねえ。ところで皆さんの中で、急須の口から直接お茶を飲んだことあるって人、

いる?

病気のときの「吸い飲み」じゃなくってよ。普通のお茶の道具としての急須。

いたらコメントくださいね。

そういうお茶目な人って、えめる、すきです。

だって、えめるだってそうやって飲んだことあるよ。こっそり。

子どもの頃だけど。主に……。←

 

楽しいこと、面白いことって、

どうしてお行儀が悪いんでしょうね。

ちょっと人間ぽくしゃべってみたけど、いかがでしたか?

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「天使の花はしご」(46)

(前のお話45へ) (モクジ君)

 天使は効果の薄くなった羽根をくわえなおし、

横目でちらりとグリフォンを見ました。グリフォンの目玉もこっちを見ていました。

グリフォンは天使の視線に気がつき、くちびるをめくり上げてあざ笑うような表情になると、

水を蹴ってすっと天使に近付きました。そして頭の中に呼びかけてきました。

『それが最後の一枚ね。どうするの?』

 天使がそれを無視して顔を上に向けなおしました。

すると今度は前に進み出てその血走った目を後ろ向きに回転させて見てきます。

『羽根を下さいと、その口で言ったらいいわ。さあ、言ってみなさいよ

 グリフォンの口調が挑戦的に変わりました。

天使は、胸の中にむくむくと沸き起こった不快なもののせいで、

うっかり叫びだしたい気持ちになりました。

それは憎しみと嫌悪の入り混じった、人間らしい感情でした。

天使は、羽根の軸がくちびるに食い込むほどぎゅっと引き締め、耐えました。

グリモアは泉での最後のとき天使に、言葉を言ってはいけないと教えてくれたはずです。

今はそれを信じるしかないのです。

 二人はまた黙り込みました。

 

 小さな点だった地上の光は、なんとか円形が感じられる大きさになりました。

すると水中にうっすら光がさしてきて、その透明度とあたりの空虚さを見せ付けます。

確実に地上に近付いている、そのことが何よりも、天使に力を与えてくれるのでした。

天使はまた羽根をくわえなおし、

泉のほとりでグリモアが言っていたことを思いだしていました。

《――さあ、これを腰につけよ》

 そういって渡された腰布は、鋭い爪に剥ぎ取られて何所かにいってしまいました。

《グリフォン、お前にこの人間を預ける。そして地上に向かうのだ――》

(でもグリモア様、地上はまだあんなに遠いです。それに――)

 なぜグリモアはこんな恐ろしい生き物に自分を託したのだろうと思うと、

冷徹な瞳のグリモアが恨めしく、また地獄の番人の真のおそろしさを

身をもって知ったような気がするのでした。

『そう、グリモア様は恐ろしいお方よ。あなたを私の獲物として下さったのだから』

(――獲物!!)

 ここでまたその言葉を聞くことになるとは! その恐ろしい言葉は、

悪魔の手伝いをさせられる存在にだけ使われると思っていたのに。

(ではグリモア様は、わたしを地上に帰すおつもりはなかったとでもいうの?!

ギアドおじいさんは、私を助けようとしてガラの泉を飲むように仕向けたんじゃなかったの?!)

 天使は大きく見開いた目でグリフォンを見ました。

グリフォンが今度はからだがくっ付きそうなほど近くにすり寄ってきました。

『わかったでしょう? あなたは私のモノだってことが。フフフ。

地上はまだまだ遠いわよ。ほうら、そろそろ羽根の空気がきれる頃だわ。

さあ、その口を動かして私にお願いしなさい。どうか助けて下さいって。

羽根なんかあなたが欲しいだけ、いくらだってあげるわ。

そしてこれから私と一緒に暮らすのよ。ねえ、いい考えだと思わない?』

 天使はショックと息苦しさで、グリフォンの鼻から吐き出される泡を避けることも忘れていました。

泡をかぶってぼうっとした頭が再び幻影を見はじめます。

それでもまだ正気の部分が必死に何かを思い出そうとしているのですが、

目を強くつぶっても頭をどんなに振っても、フィズの幻が霧のように見るべきものを覆い隠し、

それまでの考えが途切れてしまうのでした。

(ああフィズ、苦しいよ――)

『ええ、私だって助けてあげたい、だから言って』

(助けて――)

『口に出せばすぐに助けられる、だからお願いよ――』

 ぴったり寄り添った二つの影は、そのまま静かに上昇していきました。 

 

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「天使の花はしご」(45)

(前のお話44へ) (モクジ君)

 グリフォンはすっかりもとの馬の姿に戻り、

さっきまでの甘い吐息は、馬の荒い鼻息に変わりました。

『もう少しだったのにィッ!』

 ひび割れた声とともに向けられたぎょろりと大きな目玉に、

天使は思わずからだをそらせ、背中になにか冷たいものを感じました。

空気の層のひび割れから水が噴出し始めたのです。

天使はいそいで一枚羽根をくわえ、その裂け目に腕を突っ込みました。

薄皮のような手ごたえで膜が破れ、一瞬にして暖かだった小部屋が

散りぢりの泡になり、視界から消えました。天使もその後を追いかけ上に向かいました。

 目指す先には、明るい点が見えています。地上の光でしょう。

でも、人間のからだは天使のそれとは違い、神のご加護が働かないぶん疲れやすく、

水の圧力の影響も受けやすいのでした。天使のときとと違う感覚にあせり、思うように進めません。

(このままじゃ……)

 もし途中で力尽きてしまったら生きてフィズに会えない、そう思えばなお更、

まるでいうことを聞かない人間のからだが恨めしいのでした。

グリフォンはと下を見れば、ゆったりと泳ぎながら、

引きつらせた口元から人間じみた歯が覗かせています。

『ねえ、ひとこと助けてって言いなさいな』

 馬のいななきとともに空気の泡が吐き出されましたが、映し出されたフィズの幻影には、

もう天使を誘惑する力はありませんでした。

 ふと、泉にぼうっと浮かんで天井を見上げていた場面が思い浮かび、

天使はからだの力を抜きました。

(ああ、そうだった……人間も浮くんだよね……)

 人間のからだが自然界の法則にしたがって浮かび上がり始めると、

そのあとを天馬がだまって続きました。

 

 地上に光の点は、なかなか大きくなりません。

それからの天使は、手足を真っ直ぐに伸ばして無駄に動かず、

出来るだけ空気を節約したつもりでしたが、人間のからだは予想以上に沢山の空気を欲しました。

地上に着くまでに後何枚羽が必要なのでしょう……。

グリフォンは何もいわず、後ろから見ているだけです。

あんなことのあった後です、今さら羽を引き抜かせてくれるのでしょうか。

グリフォンは本当にこのまま天使を地上に帰すつもりがあるのでしょうか。

口にくわえた羽根を交換するごとに、天使の不安はどんどん増していきました。

そしてとうとう手持ちの羽根は残すところ、今くわえている一枚きりになりました。

『あら。早いわね。もうそれで終わり?』

 いつの間にかグリフォンが隣に来て、視点の定まらぬ目がこっちを見ました。

 

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「天使の花はしご」(44)

(前のお話43へ) (モクジ君)

 天使はグリモアの言葉を思いだしていました。

《無事に帰りたければ、決して口から、はなさぬように》

 空気の小部屋に水が染み出してきました。

グリフォンの意識が天使に集中しすぎて、空気の層への魔力が薄れているのです。

天使は足元が濡れているのに気づき、羽根を引き抜かなくてはならないのを知りました。

 でも今はそれどころではありません。グリフォンの手を追い払うので精一杯です。

なぜこうもグリフォンが腰布に執着するのか――腰布の下にあるものに

何の意味があるのか、天使にはさっぱり分かりません。

でも、さっき一瞬浮かび上がった男女の姿に、何か関係しているような気がするのでした。

《無事に帰りたければ――》

(それなのにグリモア様はなぜこんな目にあわせるの……)

『あなた、何を怖がっているの? フフフッ』

 グリフォンの笑った口からあまい香りがして、天使に強い陶酔感がやってくると、

再び目の前に、フィズの顔が浮かび上がりました

抵抗する力が弱まった隙を突いて、グリフォンが鋭い爪で布を一気に引き裂きました。

 【この下は、18禁じゃないはずです;;;が;;;ご意見・ご感想くれる?】

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えめる。

Author:えめる。
ネコの心のえめる。です。
同じ名前の人がいつの間にか
チラホラいるようなので
。を付けました

ねこ人間のプロトタイプ
品質最低で^・ω・^すまんね。
いちおう言っとくけど
永遠の22歳ニャからね。
ハートがっ。


ちなみに脳内は5才くらい
ほんとすまんね。

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