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「天使の花はしご」(49)

(前のお話48へ) (モクジ君)

 若者がエプロンをつけておずおずと立ち上がり、尋ねました。

「ジュリ……って誰なの?」

 まさか天使だとは答えられません。普通の人間にその姿は見えないのですから。

「あ、あなたには関係ないわ」

 その冷たく突き放すような言い方に、若者が急に悲しげな顔をしたので、

フィズは声を和らげました。

「小さな女の子よ。あ、それよりあなた、そんな格好で困るんじゃなくて?

なにか着るものを持ってきてあげるわ。すぐに戻るからここの日陰にいて」

 小鳩のようにくるりと向きを変えてフィズが行ってしまうと、

若者は彼女が立っていた井戸の影に入りました。

 

 屋根付きの井戸のまわりはすうっと涼しく、初夏の日差しに焼かれた皮膚が、

ひんやりとした空気で気持ちよく冷やされていきます。

額の汗が流れて目に入ったのを、熱い腕でこすりました。

辺りは静かで、時折り聞こえるミツバチのぶうんという音以外、何も聞こえてきません。

 若者は井戸のふちに手を掛け、石で詰まれた壁にもたれかかりました。

涼しい風は、井戸の中から流れてくるようです。

汗ばんだ顔に風を当てようと井戸に身を乗り出し、中を覗き込みました。

中は真っ暗ですが、奥のほうに水面らしき光の反射が見えます。

すがすがしい空気のにおいがして、何度か深呼吸をくり返すうちに、

ほてったからだが落ち着くようでした。

 そのとき井戸の奥底で水面がちらっと光ったようです。

若者は突然おそろしい気分になり、その場から後ずさりました。

ほんの一瞬でしたが、何かが自分を引きずり込もうとするような幻覚に襲われたのです。

胸の動悸が大きくなり、耳の奥で大きく波打つのが聞こえます。

(今のは、なに――)

つめたい汗が体中に噴出しました。

 

 ドアの開く音で、若者はハッと我に返りました。 

「お待たせ。亡くなった父さんの古いものなんだけど、これなら着られると思うわ。

ね、どうかしたの? 顔色が悪いけど……」

「なんでもない……」

「はい、これ。いま、何か飲み物を持ってきてあげるわね」

 フィズは下着と一緒に生成りのシャツと麻のズボンを若者に手渡すと、

また家の中に戻っていきました。若者は不器用な手つきで服を身に着けながら、

考えていました。さっき見えたと思ったものはなんだったんだろう――

恐ろしいような、でもそれだけじゃない、もっと違うじぶんがいたような――。

服を着てその場に座り込みました。――もっと違う自分――

 「ねえ、つめたいレモン水、持ってきたわよ。あら、眠っちゃってるの? 変な人ね」

その顔を覗き込んだフィズの手からグラスが滑り落ち、若者の裸足のつま先を

冷たい水がぬらしました。若者は身じろぎもしません。そのシャツの襟元から、

赤黒いクモが這い出してきました。

それはこのあたりで時々人や馬がさされる、毒グモでした。

 

(次のお話50へ)

あーんもうっ。泣く泣く泣く。まだまだ終わんない。

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テーマ : 自作連載ファンタジー小説
ジャンル : 小説・文学

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非公開コメント

おへんじよ

>>チャンさーん

あらー、ほんとらー。まつがってるー。
^・▽・^
さすが、よくぞこの謎を解き明かしてくれた。うむ。褒美を取らすぞ。
ささ。肉球ナデナデ。^vωv^ノ(・・*)

これから直しにいってくるニャね。ありがとっ。

新たな旅立ち

面白い話しになりそう
((o(^-^)o))ワクワク~
ところで
屋根月って…
屋根が月の形?
月に屋根が掛かる?
あっ屋根付き?
や~ね~-(笑)

これからの物語り期待していますよ
 ∧_∧
ヽ(´∀`)ノ

おっへんじにゃー

>>彼岸花さーん

読んでいただけて、うれしいですニャよー。
そですニャね。こうして脳内劇場が開いているうちは、無理に閉じないほうがいいのかもですニャ。あい。^・ω・^
いくつかの大きな矛盾は矛盾としておいてきぼってますが、
どうか、ひろーい宇宙のこころで眺めてくださいニャね。
今んところは、文章の表現をメインに頑張ってるッつーことで、お願いします。
都合のいいネコです。だは。

おへんじでーす

>>いき♂さーん

なんかいきなりだったわよ、ホント^・ω・^
どして毒グモなんかが出てくるんだろ?
もちっと二人が仲良くなってからでも良いのに……あっ。
フィズに介抱させて、二人が仲良くなる、そんなふうなのかな?

ラストシーンってどんなんだろってちょっと考えてみたニャ。
1.フィズの心の傷を天使が癒して二人で幸せ。
2.タマシイが見えることを生かしてフィズの幸せをかなえてあげる、自分はちょっと切ない。
3.タマシイが見えることで自分の過去を思い出し、苦しみながらも人間としていきぬく決心。
お。3が好み。っていうか、グリフォンの言葉を受けたらこの中じゃ3しかないじゃん。
きまったー、よかったー。ここでネタバレしてていいのか???
……^@∀@^ダメだよニャー。でも書き込みっ。

No title

無理に終わらなくていいじゃないですか。
マンガだって、すごい長い名作あるし。
迷作?おっと、誤解しないでね(笑)。
「天使の花はしご」のことじゃないですよ。
折角読んでるんだから、どこまでも頑張ろう!
えいえいおー。あら?

No title

おおっと!
早くもこんな形で試練がっ!!
でもそろそろ大詰めじゃまいか。
がんがれ♪
sidetitleこういうものですsidetitle

えめる。

Author:えめる。
ネコの心のえめる。です。
同じ名前の人がいつの間にか
チラホラいるようなので
。を付けました

ねこ人間のプロトタイプ
品質最低で^・ω・^すまんね。
いちおう言っとくけど
永遠の22歳ニャからね。
ハートがっ。


ちなみに脳内は5才くらい
ほんとすまんね。

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