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「天使の花はしご」(53)

(前のお話52へ)

 クモの毒のショックで、偶然か必然か記憶を取り戻した、若者の姿のジュリ。

でもどうやらフィズは、彼の話を信じていないようでした。

 ジュリはゆっくり歩き出しました。フィズのあとから家の中に入ると、

そこにフィズの姿はありませんでした。ジュリはフィズの部屋のドアの前に立ちました。

ドアの向こう側でハサミを手にして悲痛な面持ちのフィズが見えた気がしましたが、

それは今朝方、天使だった自分の目が見たものだと気付き、

ジュリの心に重く暗いものがひろがりました。それはフィズを思いやる気持ちというより、

もう天使ではなくなった自分に対する哀しみでした。

「フィズ……話を聞いてほしいの」

 返事はありません。泣いているのかもしれないとジュリは思いましたが、

もう一度はなしかける勇気はありませんでした。

今は、慰めの言葉を必要としているのはジュリも同じなのです。

 ジュリは、肩を落としたまま歩き、玄関ドアを開け、通りに出ました。

仕事帰りの時間にはまだはやく、通りは静まり返っていました。

建物の影になっている石畳のうえに立って小さく身震いすると、

フィズの父親のものだったシャツの襟元をかき合わせました。

建物に挟まれた道は、さっきまでいた光溢れる庭とはうってかわって陰気で、

地獄と地上の狭間の地を思い起こさせます。

(おじいさん、わたし、どうしたらいいの。やっと帰ってきたのに、

これじゃ何のために地上に戻って来たのかわからない――)

 今のジュリの心には、ギアド老人と、そしてあの恐ろしいグリモアとグリフォンでさえ、

ある種の懐かしさをもって思い出されるのです。

それはおそらく、彼らが、自分が誰であるかを知ってくれている存在だから……。

 ジュリはすべてを取り戻したい衝動に駆られ、空を飛ぶときのように背中に力を入れましたが、

それはまるで手ごたえのない筋肉の痙攣のようでした。もう一度ゆっくりと、肩甲骨を引きあげてみました。

懐かしい感覚がわずかでも蘇ってくれることを願って……。でも、人間の身体はまるでぎこちない動きで、

誰かが見ていたらきっと、寒さに肩をすくめたようにしか見えなかったことでしょう。

 そのとき、静けさを破って教会の鐘が鳴りだし、

ジュリはその音に押されるようにして足を踏み出しました。

どこに行くあてもなく、自分を知るものもなく、この世界に一人ぼっちという感覚だけが、

今のジュリを支配しているのでした。

 

 同じとき、フィズも部屋で鐘の音を聞いていました。

怒りを沈め哀しみを増幅させるようなその響きのなかで、

彼女はベッドから顔をあげると、両手を組み合わせてガルドの冥福を祈るのでした。

心の片隅でさっきの若者を気に掛けながら――。

 

(続く54へ)

本音。今回は、孤独と静けさの中で葛藤するジュリの心、そんなことをイメージして書きました。

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テーマ : 自作連載ファンタジー小説
ジャンル : 小説・文学

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おへんじー

>>んぐた-ん

^・ω・^←ネコだから顔に出ないけど、次のお話書いていたので疲れている。

わあーい、出てますカー。よかったー。

こんな気持ちのときに、人は(もと天使は)どんな風に感じて、
どんな考えで、どんな行動を取るのかニャーって、考えたんだけどねー。
どうも脳みそが足りなくって、ここまでが限界だったのね。
ほーんと。想像力が勝負なのが、よーくわかったニャ。まじめにー。

この次のお話も、難しかったのー。
気持ちが盛り上がらなくて、なんとか昨日から書き出したけど、
その気になるまでに何日も掛かっちゃったー。
オネコ今日、もうへとへとー。
愚痴でごめんねー。
ネコの脳みそってこんなもんだしー。ゆるしてー。

いつもありがとー。
脳みそが嫌がって泣きそうだったけど←wao
何とかかけたよー。頑張ってまた続き書くねー。

出てる、出てる(T∀T)ジュリの葛藤する様子が。

グリモアとグリフォンさえも懐かしく感じ…って、
文だけだと少しショッキングだけど、
それがジュリの孤独感をこれ以上無く表現してるよ!

ヤキモキな展開で難しいだろうけど、頑張ってね!

おへんじ

>>チャンさーん

いらっはーいっ。わおぅ。たくさんの拍手にゃー。さんきゅっ。
励まされたですニャよ。

この二人がどんな風に理解しあうのか、
またすべての記憶を持っているジュリは人間として、やっていけるのか……。
えめるにとっては大きな難しい展開になっちゃったニャよ、とほほ。
でも頑張るニャしっ。こういうどうなっちゃうの展開こそが、読み手にとっても楽しいはず……
だと思いたいんですけどぉ???筆力弱すぎて、だめか???
でもまた書くしかないニャ。

白虎隊って、そうだったのねー。
アア勘違いで、命を落としてしまった若者っていうか、まだ少年ね?
少年ゆえの思い込みの強さとか、確認の足りないところも純粋さゆえだったろうし、
あと忠誠心でしょうか。
そしておそらくは、なぜか死に強くひきつけられてしまう年頃でもあったはずです。
ぐっさりぎこぎこ。はうぅー。いててて。いたいニャよねー。実際の話。

でもさー。最近のニュースで、高齢者が自殺ってのがあったニャ。
もうお年寄りが自殺なんてさー。
本当は悠々自適だったり、大事にされるべき存在なのに。
日本は本当に、厳しい社会システムになったわけなのね……。
やはりみんな孤独なのかしら?

ネコのえめるもね、冷たい世の中の風を、このながーイおヒゲで感じるニャよ。
さむいのー。こころがー。マルマルしてるくせにー。
でもね。飼い猫になって閉じ込められるよりは、
こうして気ままな野良暮らしで野たれちゃったほうが(!?)自由ネコとして、侘びさびよね。
あぇ?何の話なのこれ?
結論。野良になるにはまだ寒い。これでよかったの??

頑張って書きましたね パチパチ~拍手

拍手五連発~(o^~^o)ν
フィズとジュリ
この世に戻り喜びと戸惑い
心通じる人がいないことから、昔を懐かしむ
フィズに早く気付いて欲しいですよね
光と陰って感じです

白虎隊の悲劇は
街が燃えているのを、居城の会津城が落城したと勘違いして
弱冠十数歳の若者達十数名が飯盛山にて刺し違えて自刃して果てたのです
一人だけ生き残った人が語り継いだのです
悲しい話しでしょ(ノ_・。)
sidetitleこういうものですsidetitle

えめる。

Author:えめる。
ネコの心のえめる。です。
同じ名前の人がいつの間にか
チラホラいるようなので
。を付けました

ねこ人間のプロトタイプ
品質最低で^・ω・^すまんね。
いちおう言っとくけど
永遠の22歳ニャからね。
ハートがっ。


ちなみに脳内は5才くらい
ほんとすまんね。

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