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「天使の花はしご」(54)

 (前のお話53へ) (モクジ君)

 フィズはひとしきりガルドのことを神に祈ると、

頬にできたふた筋のあとを手のひらで拭いました。

窓から吹く風がその手と頬を乾かしていきます。

(ガルド。私、あなたがいなくて寂しい――)

 茜色が混じり始めた空の彼方で、ガルドが微笑んだような気がしました。

空に浮かぶ色つきの雲を見ながら、天使ジュリはきっとまた何か用事があって出かけたに違いない、そう思いました。

前にも一度、言いだしにくそうにしながら急ぐ様子で出かけていったことがあったのです。

 フィズは空に向かって大きく息をはき出すと、若者の話をもう一度きちんと聞かなければいけないと思いました。

ジュリには人間にいえない特別な理由があるように、

彼にもまた、なにか深い事情があるに違いないのですから。

 それに彼の体調も気になりました。血清が――井戸の水に溶かして飲むのが

血清を注射針で打つよりも効果が高いことは、フィズとなくなった父親しか

知らないことでした――効いたのは何よりでしたが、

クモの毒が完全に抜けるまでには最低でも三日は掛かるでしょう。

いざとなればその間、この家に寝かせておくことも考えねばなりません。

 フィズは上着を羽織り部屋を出ると、裏庭に続くドアを開け、井戸に向かって呼びかけました。。

「ねぇ! もうそろそろ寒くなりますよ、ねぇ!」

 オレンジ色の逆光が眩しい庭に、その声はむなしく響きました。

井戸の側に若者の姿はなく返事も聞こえません。

もしや気分でも悪くなって、また花壇に倒れているのではないかしらと思って、

ひと通り探してみましたが、どうやら若者はこの庭から出て行ったようです。

《花作りの秘密は、門外不出だよ》

 突然、亡くなった父の声が聞こえたような気がしてフィズは井戸を振り向きました。

空耳が今度は、さっきの若者の声に変わりました。

《あのねあのねっ、地獄につながっていたの》

 そう言ったときの表情と口調は、確かにジュリにそっくりだだったと思い、

フィズは急に沸き起こった困惑に、めまいを感じました。

(でもどうして人間の姿で現れたのかしら? あの人の言葉を信じていいの? ねぇ、父さん!)

 井戸をもう一度見ましたが、何も聞こえはしませんでした。

(それにあの人、まだ体が完全じゃないわ。毒雲の毒が完全に消えるまでには

どんなに早くても三日は掛かるはず。あのからだで無理したら危険だわ。それに――)

 もしあの若者が、井戸のことを誰かに喋りでもしたら、――そこが

地獄とつながっていようといまいと――どんな些細なことでも

あの純粋そうな口から一言でも漏れたら、大変です。

 フィズは玄関へ向かいかけて途中で引き反し、

父親のものだった農作業用のジャケットをつかみ、通りに出ました。

 

 鐘の音を合図に一斉に作業場から帰る人たちが、ちょうど家の前を通るところでした

同じマークの縫い取りのある服を来た様々な人々の波のなかから、

何人かの顔見知りが笑顔を向けてきました。

彼らはみな、グレンドリン伯爵の経営する工場で働いている人たちです。

フィズが返したつくり笑顔jは、何か大変なことを仕出かしてしまったことを

隠そうとする小さな子供のようでしたが、

フィアンセのお葬式が今日だったことを知っている人々は、

その表情をむしろ哀しみの表情と捕らえ、励ますように控えめにうなずき返して、

また暖かい我が家へと急ぐのでした。

「……ああ、どうしましょう、ジュリ……」

 雑踏の中でフィズのつぶやきはかき消され、家の前を人の群れが通り過ぎるまで、

彼女に声を掛けようとする者はもう誰もいませんでした。

 若者はその頃、既に反対側の道へと進み、いくつ目かの角を曲がったところでした。

 

(次のお話55へ)

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テーマ : 自作連載ファンタジー小説
ジャンル : 小説・文学

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非公開コメント

チャンさんへおへんじー

オいそがしモードニャねー。
お体大切にニャねー。

イメージしてくれたのニャね。ありがとーっ!
ここんとこ静かな雰囲気の淡々とした展開、
ちょっと面白みにかけるなあって思っていますが、
こうやって読んでくださる方々がいること、
ココロから感謝ですにゃよ。

読んでくれる人がいると思うと、又ガンバロウって思えますニャ。

若者はどこに行こうとしているのでしょう…
フィズと若者
命日・・・雑踏・・・光と影・・・綾取り糸
そんなイメージですね

ゼミと山陰出張でバタバタして『疎』になりましたm(_ _)m
sidetitleこういうものですsidetitle

えめる。

Author:えめる。
ネコの心のえめる。です。
同じ名前の人がいつの間にか
チラホラいるようなので
。を付けました

ねこ人間のプロトタイプ
品質最低で^・ω・^すまんね。
いちおう言っとくけど
永遠の22歳ニャからね。
ハートがっ。


ちなみに脳内は5才くらい
ほんとすまんね。

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