スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【 thank 】感謝する

(1)

 そう、俺は自他共に認める仕事人間だった。

夢? 決まってるじゃないか。

仕事で一流になり、業績を創り上げ後世に伝えることこそ、男の浪漫だ。

見てくれもそれほど悪くはなかった俺は、若い頃の自由な恋愛はいくらでも手に入った。

 だが結婚は、面倒な生活上の雑務を引き受けてくれる存在を得ることであり、

俺の優秀な遺伝子を残したいという基本的欲求を満たし、

かつ仕事をしていくうえでのステイタスを保つためにも必要だった。

 俺は女たちときれいさっぱり手を切って、

系列会社の社長令嬢で才色兼備な女を手に入れた。

それがお前だ。玲奈。

別れた女の中には、いつまでもジクジクと根を持つものもいたが、

そんな時こそ金の力がものをいった訳だ。

世の中、金の力で解決できないことなんか無いんだと知った。

 

 なぁ、俺達さ、自他共に認める理想の結婚だったよな、玲奈。

二年後には子供も生まれて、郊外に小さな家を買った。

保険金の補償額も上げ、俺に万が一の事があっても

親子二人何とかやっていけるだけのものを残す目処もたった。

もっとも、お前ならいくらでも後妻の口が来ただろうし、

そもそも実家の財産があるんだから、そんな心配する必要なんか無かったんだが、

そこは男のプライドってものなんだ。

お前と息子には、ひと通りのものはこれでそろえてやれたと思った。

 

 それからの俺は、当事立ち上がったばかりの新しいプロジェクトメンバーの1人として、

会社が世界に立ち向かう足がかりとなるその仕事に没頭した。 

お前は子供の面倒を一人でみながら、仕事で帰りが遅い、

休みの日にもどこへも連れて行けない、

そんな俺に文句一つ言わずによく支えてくれた。

 

 一昨年、俺の親父が病に倒れたときも、嫌な顔一つせず、

早くにお袋が死んで、一人息子の俺以外に身寄りがいなかった親父のために、

最後まで本当によく頑張ってくれたよな。ありがとう。

その頃の俺は仕事が大きな波に乗っているときで、

病室にもろくに顔を出せずにいたというのに、

お嬢様育ちのお前があそこまでやれるとは正直いって驚いたよ。

亡くなる少し前、親父が「お前は世界一の女房をもらったな」と涙ぐんだことがあった。

あの親父が泣くなんて、よほど嬉しかったんだろうな。

それが親父が俺に見せた、最初で最後の涙だったよ。

親父のこと、今でも心から感謝している。本当に ありがとう。

 

 俺はさ、仕事を頑張りたくさんの収入を得る、それで家族は幸せになれる、

そう思っていたし、今もそれが間違っているとはいまでも思っていないよ。

毎年、長期の休みには親子三人ででオーストラリアや、ヨーロッパに旅行したよな。

そうそう、結婚十年目の記念に、オーロラツアーにいったっけ。

頬を切るような寒いなか、キラキラ瞳を輝かせたお前の横顔を、

俺は今でもはっきり思い出せる。俺達その夜、久し振りに燃えたよな。

 お前は新婚のときと何も変わらないかのようで、

しっとり吸い付く肌はいいにおいがした。

そう、この匂いだよ。

お願いだ、もっと近くで嗅がせておくれ。

俺はもう、目が見えないんだ。

ああ、声を聞きたいな。

愛しているよ、玲奈。

圭太のこと、頼んだよ。

なぁ、何か、言ってくれないか。

あの時の、ように……甘く、とろける声で…………。

 

「ええ。聴かせてあげるわ」

 

 

 

(2) 

 私はあなたなんか、少しも愛していなかった。

それはあなたも同じじゃないの?

 浮気した女たちと、分かれた振りをしても、私は知っているのよ。

お金で解決したですって? 笑わせるわね。

マンションを買い与えて愛人にしていただけじゃないの。

私はあなたにとって、愛する妻なんかじゃない、

都合のいい家政婦だったのよ。

  

 うちの父の会社が倒産した時のこと、覚えているでしょう?

あなた、仕事仕事で家に帰って来てくれなかったじゃない。

分かっているわよ。

あなたの携わっていた研究が成功して、その結果下請けの父の会社が

不要になったってことぐらい。

父はそんなこと、遺書にも一言も書かなかったけど。

お葬式に出たあなたのふてぶてしさに、私は反吐が出そうだったわ。

 

 そんな私の気持ちを、お義父様だけが理解してくださったの。

あなたが出張という名目で留守が続いたときも、

あのひとがいてくださったから、私と圭太は寂しくなかった。 

あなたがいないとき、私たちは本当の家族のように過ごしていたのよ。

 お義父様が危篤のときすぐに連絡が付かなかったのだって、

取引先とのトラブルの対応にかかりっきりだったなんて言ったけど、

何人もいる愛人のうちの誰かと会っていたのは、分かっていたわ。

私は心の底から、あなたのお義父様を気の毒に思い、そして本当に大好きだった。

こんな酷い息子の父親なのに、あのひとはとってもいい人だった……。

 

 さぁ、もうこれくらいでいいでしょう?

この毒は、体に残らないの。

あなたは原因不明の突然死と診断されるわ。

これでやっと、あなたとの偽りの生活もおしまいね。

さようなら。

 

「知っ……てた……レ、イナ……あり、がと……」

 

(3)

 そう言うと、大きく息を吐き出したきり動かなくなった。

私は何かとてつもない間違いをした気になって、小刻みに震えだした。

この人は知っていたのだ、私と義父の関係を――。

知っていながら、女たちとの関係を続けるためにわざと見逃していたのか。

いいえ、もしかしたら、私たちのことを知って苦しんでいたのは、

彼のほうだったのかもしれない。

 私は、私の腕の中でまるで眠っているような彼の頬に、掌を押し当てた。

その濡れた頬は暖かくて、私が流す涙が交じりはじめた。 

 ねぇ、あなた。

最後にありがとうなんて、ずるいわよ。

 

【終わり】

関連記事
スポンサーサイト

テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

おへんじ。んぐたーん。

あいあーい。
男の心理はイマイチよく分からないけど、
最近、遠藤周作の本を読むようになって、
色々納得できるようになりました。頭ではね。

昨日本屋で立ち読みした文系バカと理系バカの本、
さらっと流し読みだけど、あれもかなり面白かったニャ。
えめるは基本文系だけど、科学的なことのお話は大好きなのね。
星を見上げながらビッグバンのお話とか聞きたいほうです。
あぇ? どうでも良い話だったにゃな。
あ、そっか、心理という文字を見たもんだから、
脳内ワールドに入ってしまったのニャね。あはー。

わーい。ほめられたー。うっれすい♪
やだっ、尊敬なんかされたら、チョーウレすい♪
またいいもの書きt……おっと、これ言ったら
えめるの深層心理天邪鬼にやられちゃうからいわニャイよーん。

ほええ…(◎Д◎)

最初、「ん?男の心理を斬る記事かな?」とか思ったら…

す、素晴らしい短編物語でございました。

尊敬(T∀T)

おへんじ。チャンコロリンさーん。

あいあーい。最後までわからなかったってことは、
さいごまで楽しんでいただけたって事だと勝手にジガジサーン♪

ありがとでーす。元気でます。
本当にね、ここで励まされながら、実力のないのをなんとかごまかしごまかし書いていますけど。
でも、少しずつでも上達できるようにと頑張ってるニャよ。
なんたって今年は、本気で頑張るオネコだから。←ちょっと忘れてた

えめるさま ほめるさま

新分野開拓 拍手10連発 ぱちぱち~
七転び八起きかと思いきや
七転八倒
話しが二転三転四転
最後まで解りませんでしたよ(゜▽゜)/
素晴らしい
色々チャレンジしてくださいね

にゃふ。いかがでしたでしょうか。
そか。予想を裏切ったのか。はふ。

えめるもね、書き始めたときは全く違うものを予想していたのよ。
最初はね、ホラーどころか、離婚した後に相手の大切さに気が付いて同じ人と再婚する、
ほのぼの暖かくなる夫婦愛・感謝、
そんなハートフル話を書くつもりだったのよ。

ところがどっこいよ。
書いていくうちに、怪しくなって、どんどん怪しくなって……。
書き終わったらこんなよ。
オカシイニャ。ヘンだニャ。このシリーズはどうも私の予想を裏切り続けているニャ。
(他のお話も常にそうなんだけど)

もうね、きっと脳みその欠陥だし。泣きたいのよ、マジ。
もっときちんと練ったら面白いんだろうけど、
書きながら進めるしか出来ない、その場限りの脳みそなのよ。
本気でこのままじゃ、やヴぁい。

うすうす感付いていたけど、脳みそやヴぁいことはっきりしたことが、
これを書いたことの収穫って訳ね……。わーい。

こんばんは。
ホラーだと思ったら
なにやら様子が違う・・・
思ったよりどろどろしてた。
でもえめるさんがこういうストーリー書くのって
なんか新鮮ですねぇ。
sidetitleこういうものですsidetitle

えめる。

Author:えめる。
ネコの心のえめる。です。
同じ名前の人がいつの間にか
チラホラいるようなので
。を付けました

ねこ人間のプロトタイプ
品質最低で^・ω・^すまんね。
いちおう言っとくけど
永遠の22歳ニャからね。
ハートがっ。


ちなみに脳内は5才くらい
ほんとすまんね。

sidetitle最新記事sidetitle
sidetitle最新コメントsidetitle
sidetitle話題分けてみたsidetitle
sidetitleつながりsidetitle
sidetitle素敵な生きものsidetitle

presented by 地球の名言
sidetitle月別アーカイブsidetitle
sidetitleRSSってなに?sidetitle
sidetitleなにげにsidetitle
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。