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【 raise 】育てる-2-

 

 満月が南の空高くなったところで植えつけるようにとの

言いつけは、これで守れました。

「植え付けのタイミングさえはずさなければ、後はそう難しくはありません」

 伯爵の声がよみがえりました。

私は一息つきたくなって戸棚からブランデーを取り出し、一口飲むと

ほっと安堵のため息が出ました。

 目の前の鉢は、今はまだ水を含んだ土の黒い色しか見えませんが、

伯爵の話では、明日の朝には芽を出すはずです。

私は期待と不安の入り混じった思春期の少年のように、

落ち着かない気持ちで腐葉土の表面をみつめていました。

 

 私がその話を伯爵から持ちかけられたのは、半年ほど前のことでした。

 

 

 

 

 その夜はいつものように伯爵邸のサロンに出かけ、

仲間たちと酒を酌み交わしポーカーに興じていました。

不思議と勝ちが続き、酔いも回りとてもいい気分でした。

もう2,3回勝ったらやめようと思いながら、酒のお替りを持って

テーブルに戻る時、誰かが私の耳元に囁きかけたのです。

「皆が帰ったあと、誰にも気付かれずに裏口から入ってください。お見せしたいものがある」

 すぐに伯爵だとわかりました。

秘密めいたその言葉に、私は後ろを振り返りました。しかし誰の姿もそこにはなく、

その先で伯爵が数人と談笑していました。

 今のは空耳だったのでしょうか。

空耳というには、内容がはっきりしすぎているような気がしました。

あるいは他の誰かに向かって言ったのかもしれない。

友人の紹介という形でここに出入りするようになった私は、

伯爵と二人きりで個人的なお話をしたことは殆んどなかったのです。

でも私の側には他に誰もいませんでした。

さっきの声は、見せたいものがあると言っていました。

伯爵が私なぞに何を? なぜ私に?

 テーブルに戻ってからもずっとそのことが気になってゲームに身が入らず、

勝てそうな手だったにもかかわらずタイミングを逃して負けてしまいました。

私はその場を離れると、

オペラ歌手の話で盛り上がっているテーブルへと移動しました。


 その後も伯爵は乾杯の音頭を何度も取ったり、

面白いジョークで場を沸かせたりで、

私はさっきのことを彼に確かめる隙がありませんでした。
 


 夜も更けて満月が南の空に掛かると、みな帰り支度を始めました。

そのとき伯爵の眼が私に何度も向けられているのに気が付き、

あの囁きはやはり間違いなかったのだと思いなおしました。

そして、なぜかは分からぬが自分だけが伯爵の眼に留まったことへの、

喜びと不安が一気に胸に押し寄せてきました。


 私は皆と一緒に邸を出ると、

今夜は月がきれいなので歩いて帰るからと言い訳をして、

迎えの馬車に乗り込む友人たちを見送り、一人で歩き出しました。

実際その夜は明るい月夜でしたし、マントを脱いでもいいくらいの

陽気だったので、私のことを訝しがる者はいなかったでしょう。

 すべての馬車の音が消えたのを確かめてから、くるりときびすを返したとき、

マントの裾が大きく翻り、裏地が月明かりで銀色に光って見えました。

それが玄関で見た伯爵の灰色の瞳を思い出させ、私は身震いしました。

武者震いとでも言ったほうがいいかもしれません。

 邸の裏口はすぐに見つかりました。

 

【3へ】 
 

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ジャンル : 小説・文学

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非公開コメント

おへんじ。

>>篁さんへ。

お越しくださいましてありがとうございます。
私のほうからは読み逃げばかりで、すみません。
まだコメントする勇気がなくて……。

はい。怪しい雰囲気でお話をすすめたいと思っているんです。
種がこのあと、どんな成長をするのか……
これには、もしかしたら元のお話があるのかもしれません。
私は何かで読んだ「そういう種がある」程度の情報だったけど、
あまりにも現実離れしているのです。
もしかしたら物語の中のほんの一文だったかも知れませんが、
その元は外国の昔話などにあるのかも。
大人の御伽噺のように書いてみたいと思っているのですが、
上手くいきますかどうか……。

拙文を、楽しみといっていただき、ありがとうございます。
続きを書く元気をいただきました。

ご無沙汰しておりました。篁です。

灰色の瞳。
どうもこの伯爵という人物は怪しいですね。
謎めいた台詞で誰にも気づかれないように注意し、法外な値で種を買わせる。
これから一体どうなるのか、楽しみです。

>>ちゃんさーん。

いらっはーい♪ いつもありがとうでーす♪
あうぅ? ほんとらー。なんかへんー。
ごそごそ。
なおしてきたのらあー。(これ誰なの?おせーてー)

マントの高級ウールの表面感が、言いたかったわけですが、
そんなに光らニャいわよねー。
って事で、裏地に変更いたしました。
今度はどうかニャ? また何かあったら教えてくだされ。

感謝のしるしに、あい。おいしいコーヒーミックスフルーツ。
ジュースの甘さとコーヒーのほろ苦さのコラボ。
不味くないと思う……よ?飲んでみた感じでは。

マントの裾が大きく翻って表面が月明かりで銀色に光った…』
⇒ 月夜の出来事が鏡に映って見えますよ
銀色に怪しく光るものは…?

満月にオウカミ男でも現れそうですね(;~∧~;)ヾ
sidetitleこういうものですsidetitle

えめる。

Author:えめる。
ネコの心のえめる。です。
同じ名前の人がいつの間にか
チラホラいるようなので
。を付けました

ねこ人間のプロトタイプ
品質最低で^・ω・^すまんね。
いちおう言っとくけど
永遠の22歳ニャからね。
ハートがっ。


ちなみに脳内は5才くらい
ほんとすまんね。

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