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【 raise 】育てる‐3‐

【前のお話】 

 

 私の勘違いではないだろうか、やはりあれは他の人に送った

合図だったのかも知れない。その考えは一歩ごとに強まりました。

  もしかしたら、その誰かはもう既に屋敷の中にいて、

宝物を前にしながら、こんな私のことなどまるで頭の片隅にも

思い浮かぶことなく、貪欲な瞳を輝かせているのではないだろうか。

そして、仲間だと勘違いした1人のみすぼらしい学者がこの瞬間、

コソ泥の様に背中を丸めて
思い悩んでいるなどとは、

夢にも思っていないことだろう――。

その考えに至った私は、今すぐ回れ右をして誰にも見つからないうちに

走り去ってしまいたいという衝動に駆られました。

しかし、そうはしませんでした。

足取りはますます重く、鉛の靴を履いたようでした。



 落ち着き払った伯爵の灰色の眼を思い出すと、

急に彼が恨めしくなってきました。

しかしここまできて今さら引き返すのも口惜しいのです。

あの伯爵が内密に見せたがっているものが一体なんであるのか、

それを知らずに帰るのはあまりにも口惜しいと思うのでした。 



 
裏口のドアの前に立ちました。辺りに耳を済ませても、他に何の気配もありません。

もし私の勘違いだったらそのときは、忘れ物を取りに来たと言おうと決め、

勇気を奮い起こしてドアノブをにぎりました。

 思ったとおり鍵は掛かっておらず、そっと押すと

わずかにきしんだ音をさせて開き、そこに伯爵が立っていたのです。

「やあ。来ましたね」

私はもう少しで大声を出しそうなほど驚き、また同時に大きく安堵しました。


なぜなら、伯爵の声は落ち着いていたし、その顔には

言いたくてたまらない秘密を隠し持つ子供のような笑顔が

はっきり浮かんでいたからです。


「誰にも見られませんでしたね」

私は大きく頷き、伯爵の背後を窺がいました。

「あなた一人です。あなたと私、二人だけの秘密、と言いなおしましょうか」

伯爵の笑顔が近付き、ワインの匂いがしました。


「ついて来て下さい」

私たちは地下へと続く階段を下りました。

その先の小さな灰色のドアを、軽く腰をかがめるようにしてくぐると、

中は広々とした居間になっていました。

暖炉の中では薪が
パチパチと小さな音を立てており、

どこにあるのか通風孔からは、

外の新鮮な空気が流れ込むかすかな音が聞こえています。

地下とはいえ、実に快適な空間になっているのでした。


 伯爵にすすめられるままソファーに腰をおろすと、

どこからともなくふわりと、甘い香りが漂ってきました。


伯爵は、珍しいガラの印刷された葉巻の箱を開けると、私に勧めてきました。

私もほんの時たまですが葉巻を吸う趣味があったので、それが

外国製の非常にめずらしいものであることが分かりました。

さっきの香りはこれだったのかと思いました。

しかし、街の店に行ってしかるべき代金を払えば手に入るものです。

伯爵の話が葉巻であろうはずはありません。



「さて。私はあなたを、
信用おける人だと見込んでお呼びしました」

そう言われたとき、私は戸惑った表情をしていたかも知れません。

学者風情の私の何を持って、伯爵が信用したのでしょうか


 「一つ、あなたにお尋ねします。

あなたは奥様を亡くされてから、五年近くになるそうですが、

まだお一人でいらっしゃる。それには何か訳がおありですか。

また、家政婦がいらっしゃるとか……。

不躾な質問で大変申し訳ないのですが、これは非常に大事なことなのです。

私たち二人の間において、という意味ですが」


伯爵の灰色の瞳が私をじっと見つめます。 

私はビロウド張りのゆったりした椅子の上で、急に居心地が悪くなりました。

私が独り身でいる理由と、それが家政婦に関係あるかどうかと問われたのです。

ソレと同時に、最後の「二人の間において」という言葉が、

私の中の隠れた優越感をくすぐるのでした。


「いいえ、理由というほどのものはありません。

妻がいなくなってからも、ずっと働いてくれている家政婦がおりますが、

彼女は私の母親のような年齢です。おかげで仕事はあちこち手を抜かれますが、

そのくらいのほうが却ってこっちとしても気が楽というものです。

今の生活に特に不便はないし、

気楽な暮らしがいつの間にか五年経ってしまった、そういうことです」

 私は素直にそう答えました。伯爵は納得したように二、三度頷きました。


「分かりました。では、用件をお話いたしましょう。

実はこのたび、珍しい植物の種が手に入りそうなんです。

これは滅多にないことなので、私としても非常に嬉しいことなんです。

 そこで、それをあなたにお譲りしてもいいと考えているのです」

【4へ】 

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テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

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お返事。

>>チャンさんへ。

何の木でしょうね。うしし。ここでは教えられませんのね。
これは子供の頃、そういう種があるって何かで読んだ記憶があるのです。
そこから思いついたお話。

中世って、貴族のあいだで、人体模型を作るのが流行ったとか、
ミイラが流行ったとか、おどろおどろしい時代でもあるイメージ。
だからこのお話の背景もその時代にしてみました。
時代考証はまるでいい加減ですけど……。
現実離れしすぎているのですが、世の中色々ありますから、もしかしたら本当に……。

天まで登る豆の樹でしょうか?
それとも金の成木…
それとも幸せの樹なのかも…
あ~早く教えてください
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えめる。

Author:えめる。
ネコの心のえめる。です。
同じ名前の人がいつの間にか
チラホラいるようなので
。を付けました

ねこ人間のプロトタイプ
品質最低で^・ω・^すまんね。
いちおう言っとくけど
永遠の22歳ニャからね。
ハートがっ。


ちなみに脳内は5才くらい
ほんとすまんね。

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